さて、前回まで相応の経済的、時間的な負担をせずに利益だけを享受するフリーライド問題についてお話ししてきました。今回は「年金フリーライド」についてお話しします。
自治会費の未納者、会社の働かないおじさんなど、昔からフリーライダーは存在しました。その中で現在特に注目されているのが「第3号被保険者問題」です。これは岸田総理が打ち出した、扶養から外れ社会保険料を支払うことになる「年収130万円の壁」を撤廃するという政策パッケージについての問題で、毎日のように新聞をにぎわしています。
そもそもこの問題の論点となっている第3号被保険者とは、第2号被保険者(厚生年金や共済年金加入者)に扶養されている配偶者で、かつ原則年収が130万円未満の20歳以上60歳未満の人、いわゆる扶養範囲内の主婦(夫)が該当します。大きな特徴として本人に年金支払い義務がなく、配偶者が加入する年金基金が代わりに支払ってくれます。結果的に独身者や配偶者の年収が高い保険者がなぜか他人の主婦(夫)の保険料を支払うことになっており、捉え方によっては主婦(夫)が、配偶者の年金にタダ乗りしていると考えられます。
本制度はそもそも1960-70年代に大多数だった専業主婦の救済策として発足しました。主婦には元々国民年金の加入義務があったのですが未納も多く、そんな人たちの将来の離別や無年金に対処するために発足されたものでした。働き手も多く、画一的な家庭像があった時代には間違っていなかったのですが、高齢化や女性就業率が高まると状況は全く反転してしまいます。配偶者の有無による不公平感だけでなく、わずかな差によって可処分所得が大きく変化する収入間の不公平も問題になっています。
この件は悪化する年金財政と多様化する働き方改革の絡みから、2000年ごろからたびたび改革案が浮上します。がそのたびに世論や経済団体の反発に押し返されてきました。ようやく2016年から第3号被保険者の要件を少しずつ狭めることになり、フリーライドを減らそうとする動きが始まりました。実際この10年間で第3号被保険者は3分の2になりました。今後さらに減らそうとしているのは見え見えで、近い将来無くなるのかもしれません。年金制度は極めて複雑ですので、世帯単位で見るとさほど不公平ではないという意見もあります。
また年金自体がそもそも不公平で、例えば若者においては将来の受給が悪化することは間違いありません。また、年金は数十年かけて受け取る極めて長期にわたる制度です。どのように制度を変えても、今のように流動性が高い社会では、制度改革が追い付かないのも頷けます。今回政府が発表した130万円の壁撤廃。何を意図し、何が問題なのでしょう。次回以降、この問題についてさらに掘り下げていきます。