さて、今回は「迷走する少子化対策の煽りを食らう社会保障」についてお話しします。
1960年代に2.0付近を維持していた特殊合計出生率はその後漸減し、1989年に1.57まで低下しました(1.57ショック)。出産が大きく控えられた1966年(いわゆる「ひのえうま」)の特殊合計出生率1.58を下回ったことから、政府として少子化に対策すべきという声が高まり始めました。以後1994年からの「エンゼルプラン」、2000年以降の「少子化社会対策基本法」等など目先や名前を変え、現在に至るまで30年以上の間、連綿と行われています。ちなみに2022年の出生数は過去最低の77万人、特殊合計出生率は1.26でした。効果がなかったとみるか、対策したからこの数字で留まっているとみるのか、難しいところではあります。
岸田政権は「こども・子育て政策」を看板に掲げています。具体的には「子育て支援」、「共働き支援」、「安定財源の確保」などです。また今後3年間の政策として「加速化プラン」を発表しました。相変わらず耳あたりがよいが中身がわかりにくい政策ばかりです。しかし以前と異なるのは、コロナで使い果たした国の財布から財政出動が極めて厳しいということです。少子化対策以外にも、賃上げや物価安定の「新しい資本主義」、国家間の緊張に基づく「外交・安全保障」、国土を災害などから守る「国土強靭化計画」などがありますが、どれも大きな財政出動が必要で、財源に関しては従前から危惧されていました。
「こども・子育て政策」には3~3.5兆円の新たな予算が必要と試算されています。うち1兆円を既定予算で、さらに1兆円を社会保障費の歳出カットで、そして最後の1兆円を「支援金」で賄う予定としています。新たに創設された支援金制度は健康保険(組合)が国に代わって徴収するもので、保険料に支援金を上乗せして広く国民から集めるものです。増税にすると評判が下がるため保険料という名目で徴収しますが、実質増税と言われても仕方がないうえに、高齢者や低所得者には減免措置を行うという話が出たために負担の世代間格差をさらに助長するとSNS等では大炎上しています。
支援金制度は2026年度には始まると報道されています。保険とは本来、自分自身の健康に使われるはずです。がしかし、公共に用いられる税金との線引きがあいまいになってくると何のために支払っているのかわからなくなります。今もフリーランスを中心に無保険者・無年金者が増加しています。今後支援金制度が始まるとさらに増加しかねないこと、そしてどこまで増加するか計り知れない社会保険料の増加は可処分所得を減少させ、実質賃下げとなることから今の賃上げ政策と整合性が取れません。
このように支援金制度は大きな問題をはらんでいます。もうひとつ、特に我々にとって非常に問題なのは「社会保障費の歳出カット」です。これについてはまた次号でお話させていただこうと思います。
さて、メルマガも2023年最後の配信となりました。今年も1年間ご愛読いただき誠にありがとうございました。最後になりましたが、みなさまの2024年がよき年であるように心からお祈りしております。